四国の右下移住アドバサーの小林陽子さんに、この一年を振り返って感じる、“移住の今”についてお聞きする『地方移住の極意2021』。後編は定年後の高齢者と若者と、大きく2つの年代にわけて移住の注意点を伺いました。※敬称略
定年後の田舎暮らし 成功の秘訣は “地域と家族になれる”か、どうか。
小林 60歳前後、特に定年前後での移住に関してお話しさせてもらいますね。
やっぱりご高齢の方の移住は、若い方と比べるとハードルが高いと思っていただきたいです。ご家族の元へ移られるのは大丈夫なんですけど、縁もゆかりもない土地に移住をされたいという方は、よっぽど準備をしないと辛いことが起こると思います。「定年後、移住しようかな」と考えている人は想像しながら聞いて欲しいんですが、まず、移住するには住んでいた家を処分したり、色々なものを手放す覚悟が必要です。

移住した1年間はその土地の言葉(方言)、水や気候に慣れる期間。最初の1年は目まぐるしく生活が変わります。1年目は元居た場所の友達や家族が「楽しそう」と遊びに来てくれます。
2年目、3年目、それ以降は本当に仲のいい友達、家族しか遊びに来てくれないんですよね。
そうなったとき、移住してきた場所でどれだけ交友関係を作れているかがポイントです。田舎であればあるほど、“地域が家族”。友人も家族も人間関係のほとんどは、地域のコミュニティがその役目を担うと思ってください。地方へ移住するということは、そのコミュニティへ入っていくわけなので、3年目くらいが地域に溶け込み、ずっと暮らしていけるかどうかの勝負どころと思います。
1年目、2年目は「よそから来た人(移住者)」として許容範囲も大きいと思うんですが、3年目からは「わかってるでしょ?」と、地域の人として見られます。自分から「新しい家族を作る」気持ちで町内会や出役など可能な範囲で参加した方がいいと思います。
――――そういう人間関係が嫌な人は人里離れた山奥で暮らせばいいんでしょうか?
小林 勘違いしている人も多いんですが、今テレビで人気ある『ポツンと一軒家』の影響で、人と接触せずに済むと思っている人がいるんですけど、全くの逆です。田舎は人と接触して生活するから田舎なんです。人との接触を苦手とされる方は田舎への移住をおすすめしません。若い方ももちろんそう。「山奥に住めば人と接触しなくていい」なんて考えは、もってのほか。とんでもない話ということを頭に入れて、家族を増やす、友人を増やすつもりで地方移住を考えて欲しいですね。
それから田舎暮らしをするなら車の運転はもちろん、インターネットも必須。「出来ない、出来ない」は絶対にダメ!今はお金があればインターネットでなんでも買える時代なので、ケガや病気になって動けなくなってもネットで買い物できれば、なんとかなります。
先ほどの話に戻りますが、田舎に住んで「意外と周りに人が多い」と思っても、10年もすればあっという間に『ポツンと一軒家』になれるので、心配しないでください(笑)。『ポツンと一軒家』にすぐなれます。
若い人は特に注意。SNSより怖い!?田舎の世間話
小林 続いて若者の移住についてお話します。40歳くらいまでの若い移住者が相談にみえると、まず「どちらの生まれ育ちですか?」と聞きます。「田舎育ちなんです」という人がいますが、18歳まで田舎育ち(高校卒業までの地方暮らし)という人は、ほぼ田舎育ちでないと思ってお話します。というのは、田舎の人間関係をご存じない方がほとんどなんですよ。高校までだと地域との関わりをほぼ経験してないんです。地方へ移住されて「田舎出身です」というと、田舎暮らしを理解しているという誤解を与えて、後々トラブルが起きることがあるので、そこには十分注意をして欲しいです。
例えば、都会で飲み会をしてもまわりは全員知らない人ですよね。だけど田舎の居酒屋では、テーブルの横も前後も、店内ぜーんぶ知った人になります。店に入らなくても、店の前に停まっている車や自転車を見て、「あの人飲みに行ってるわ」と周りの人に知られていると思ってください。
他にも美容院、ネイル、マッサージ、喫茶店・・・どんな所でも「誰かが聞いているかも」と思って話をしてください。特に人の悪口や内緒の話はそういった場所で話すことはNGです。相手のことをよく知らず、いろんなことを話するのは、すごい危険です。話をしている人の背景に親戚、交友関係に加え、田舎では絶大な力を持つする“同級生”というというのがあります。田舎では同級生組織の力が作用します。田舎ではSNSなんてたかがしれています。怖いのは世間話(語気を強めて)。
その場その場の会話で伝わるため、誰が言ったとか内容が少し変わっても証拠が残らないんですよね。面白い話はスーパー、道端、どこでもどこからでも会話、会話で広まっていく世界なんです。SNSより早く広まるし、LINEやfacebookなどとは違って友達、友達じゃないなど関係なく、いろんな人にあっという間に広がります。
――――口は禍のもとですね。
小林 そうですね。移住して1年間は話をする相手の背景に気を付けてお話しされることをおすすめします。
それと田舎の人たちは面と向かって注意や批判をすることはほとんどありません。なので、言われた時はよっぽどだと思ってください。後になって「こういうルートで耳に入ったのか」、「この人とこの人が繋がっていたのか」と思うことがよくあると思います。小さな世界なので、うんと気を付けるようにしましょう。そうすると田舎での生活は楽です。若い人はそれが嫌と思えば、他のところにすぐ移ればいいと思います。
――――うっかりトラブルを引き起こしてしまった場合はどうすればいいでしょうか?
小林 移住者の方で困ったときに相談できる人は役場の移住担当者だと思います。ただ、ここでお願いがあります。「いつまでも頼らないこと」、「友人と勘違いしないこと」。移住や定住のサポートを親身になってしてくれていると思いますが、出来るだけ早く自立してコミュニティに入れるよう、頑張ってください。1年間は様子見ながら、だけれどもなるべく早く一人立ちする。これも定住に向けた必要なステップです。でも困ったときは何年経っていても、躊躇せず頼って下さい。相談は早い方がいいです。
――――地域に新しい人が入ると、物珍しさでいろんな人が寄って来て親切にしてくれるというケースもあります。そういった時の対処方法はありますか?
小林 それ、難しいですね。親切できてくれる方も多くいらっしゃると思うんですが、中には見返りを求める方もいらっしゃるので、よっぽど注意が必要です。最初はわからないと思うので、移住のお世話をしてくれた方に「こんな方が来られました」ということをお話してはどうでしょうか?お世話してくれた方がよく思ってない人だった場合、悪くは言えないんですが、ただ良い人の場合はちゃんと教えてくれます。「あの人と仲良くしてたらいいよ」とか「良かったね」と言ってもらえたら、信用できると思います。その人について詳しく聞いて話しづらそうにしたり、「ん~」と考え込むような人は、もしかしたら距離を置いた方がいいのかもしれません。
地域の人間関係に慣れるためにも、町内会に入ることをおすすめします。町内会には町内会長さんや、自分の所属するエリアの班長さんがいます。そういう信頼できる方と繋がっておくことが大事ですよ。そういう方に「大根もらったんですけど、お返しどうしたらいいですかね?」と細かく相談されると、コミュニケーションで躓くことが少なくすんでいいと思います。
ただ、人間関係を躓くことがあっても仕方がないと思ってください。そういうことも含めて田舎暮らしですので、最初にお世話になった担当者の方とも連携をとりながら、地域に慣れていくといいと思います。


▲そばや玉子、野菜も大量にもらうことも日常茶飯事。(「四国の右下」暮らしFacebookページより)