ここ数年、飛躍的に普及が進む無人航空機ドローン。従来のラジコンヘリに比べ、操作がしやすく、手ごろな価格の機体もあることから、測量や点検の分野では特に活用が進んでいます。そんなドローンの可能性にいち早く着目し、ドローンを活用した地域おこしに町ぐるみで取り組む那賀町。山間地域で問題となっている鳥獣害対策や林業の分野での活用を検討するための実証実験や、ドローンレースの開催、安全に空撮を楽しむことができるよう、町内のフライトスポットをまとめたドローンマップの作成など、ホビーユーザーも幅広く取り込み、交流人口増加につなげようと様々な活動を行っています。こうした活動を担うのが『徳島県那賀町まち・ひと・しごと戦略課 ドローン推進室』。世界広しといえど、こうした専門部署がある自治体はめずらしく、ドローン関係者からも注目を集めています。そんな『ドローン推進室』のこれまでの活動をまとめて紹介します!
◎参考サイト
徳島県那賀町まち・ひと・しごと戦略課 ドローン推進室
http://nakadrone.com/
那賀町ドローン推進室、JPAN DRONE 2019に初出展
2019年3月13日から15日の3日間に渡り幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催された『JPAN DRONE 2019』に徳島県の那賀町ドローン推進室が、この度初めてブース出展しました。
会場のブース前にて那賀町ドローン推進室チームの皆さんと記念撮影。右端はドローンパイロットとして名を馳せる高梨智樹選手(2016年ドバイ開催の世界ドローン選手権出場、2017ドローンインパクトチャレンジ2017幕張メッセ優勝など超有名ドローンレーサー)。実は高梨選手、これまでに2回、那賀町に来られています!いつ来たのか、なぜ来たかは後ほど紹介するとして、そもそも『JAPAN DRONE 2019』ってなに?という話ですが、「日本最大!ドローンに特化した唯一の国際展示会&コンファレンス」とのキャッチコピー通り、ドローン製造および関連分野からドローンを利用した各種サービスと産官学様々な団体が一堂に会する展示会。2016年3月の初開催から回を重ね、今年で第4回を迎えました。
今回3ホールで開催されたJAPAN DRONE 2019 国内外から222社の企業団体の出展、14,861名(3日間合計)の来場者あったそうです。
本ブースとは別に自治体パネル展示ゾーンも設けられていました。那賀町内のドローンのフライトスポットをまとめた『那賀町ドローンマップver3』が人気で、幾度も補充したそうです。ver3は新たに10カ所のフライトスポット追加し、 2019年3月に完成したばかり!
親しみやすさと人々の目に止まることを意識して作成した『ドローン推進室』のポスター。2年前に制作したステッカーのデザインを基にしたもので、ドローンの「ド」の濁点部分を目玉にしたものを後にアイコン化して缶バッジも作りました。各種イベント毎に配布しているうちに「見たことある」、「持っている」という声を多数聞くように。
那賀町ドローン推進室、きっかけと取り組み
那賀町がドローンに取り組むようになったきっかけ。それは2015年に遡ります。
「ドローンを利活用したい」と那賀町の地域おこし協力隊に赴任した一人の隊員の活動から始まりました。
ちなみに2015年は一躍ドローンが世間に広く知れ渡るエポックメイキングがあった年です。テレビ、新聞、ネットなどで連日大きく報道されていたので覚えてられる方も多いと思います。首相官邸ドローン落下事件です。この事件でドローンの知名度が一気に急上昇。が、しかし、ドローン=悪みたいなイメージが広まり逆風の中でのスタートとなりました。
首相官邸ドローン落下事件から4ヵ月後の2015年8月。まずはともかくドローンを間近に見て知ってもらおうと企画したのがドローン実機デモ飛行&講演会『ドローンってなに?』。那賀町の最奥部である『四季美谷温泉』を会場に、徳島大学の三輪昌史先生を招きテレビや新聞、ネットでしか見たことないドローンについて、分かりやすく解説していただきました。
それから程なくした2015年10月、ドローンによる地域おこしをテーマに徳島版「地方創生特区」に応募していたところ、選定され、那賀町は徳島版ドローン特区となり、ドローン利活用による町の魅力発信と中山間地における物資輸送など地域課題の解決に向けた実証実験を行うことになりました。
徳島版ドローン特区となってはじめに行ったのが、地元の住民の方々にドローンを目で見て手でさわって知ってもらうべく、初めてのドローン体験プランを町内5カ所(那賀町合併前の各5町村)で実施。実際にドローンに触れることで理解し、漠然としたネガティブなイメージ払拭にも。参加者の中には体験後、自前のドローンを購入される方も現れました。
2016年4月、那賀町の組織再編により、那賀町企画情報課が一新し、『まち・ひと・しごと戦略課』が発足。その課内に『ドローン推進室』が誕生しました。その前後からいろいろな取り組みが次々と実施されることになります。
・徳島ドローン特区那賀町PRドラマ制作発表開始
・国交省によるドローンを活用した輸送実証実験
・ドローンマップテスト版の電波電界実証実験
・第2回国際ドローン展への出展
・ドローンを利活用して鳥獣害対策を考えるアイデアソンの開催
そして、極めつけは10月6日を「ドローン」の語呂合わせで、「とくしまNAKAドローンの日」を日本記念日協会に登録するまでに。
こうしたことをきっかけに作成された徳島ドローン特区那賀町PRドラマ『若葉のころに』では、模擬ドローンレースを実施。先述のドローンレーサーの高梨智樹選手や一般社団法人日本ドローンレース協会(JDRA)の副代表理事でドローンレーサーである横田淳選手がやって来ました。
こちらは2015年12月を第1回目に計3回行った林業実証実験。木材集材用ワイヤーのリードロープ展張を山地条件を変更しながら段階的に距離(130m→250m→400m)を延ばして実施しました。
那賀町と徳島県ドローン安全協議会とUAS多用推進技術会で災害時におけるドローンの運用に関する協定を締結。
四国初(当時)となる本格的なドローンスクールが那賀町で開校。
2016年12月、全国ドローンレース選手権四国予選(一般社団法人日本ドローンレース協会主催)開催。FPV・目視部門で計32名が参加。高梨智樹選手も再び那賀町を訪れ参戦しトップタイムで予選通過。
町内外の各種イベントでドローン体験を通じて那賀町を知ってもらえるよう、フライトシミュレーターやホビードローン体験キットを持参して東奔西走。
2018年は岐阜県飛騨市神岡町、愛知県春日井市、静岡県藤枝市より招かれてドローン体験ができるブースを設置。同時に那賀町の特産品販売をするなど町のPRに務め、大勢に体験いただき、交流を深めています。
全国見渡しても他に類をみないドローンマップ
さてここで、「なぜ那賀町でドローンなのか?」ということについて説明します。
那賀町は、平成の大合併により、二村三町(木頭村、木沢村、上那賀町、相生町、鷲敷町)が一つになって誕生した町です。面積694.9k㎡。淡路島や琵琶湖と同じぐらいあります。一方、人口はというと、8,391人(2019年1月末時点)で、人口密度は12人/k㎡です。
ドローンには基本的に三つの飛行禁止空域があること知っていますか?空港周辺、150m以上の上空、人家の密集地域(※飛行させたい場合は国土交通大臣による許可が必要)。注目していただきたいのが三番目の人家の密集地域。首都圏などの大都市圏はもちろん県庁所在地や都市部は、ほぼ人口集中地区(通称DID※地理院地図で赤色指定)となり飛行禁止空域になるんですね。
ちなみに徳島県内でも徳島市や鳴門市、小松島市、阿南市、吉野川市、北島町などの一部が人口集中地区に指定されています。で、那賀町に話を戻しますと、ノー人口集中地区、ノーDID。つまり、すごくドローンを飛ばしやすい環境にあるということです。じゃ、どこでも飛ばしてもいいかというとそうではありません。他人様の家や畑や山で勝手に飛ばしちゃダメですよねー。と、そこで生まれたのが那賀町ドローンマップです。
地権者に了承を得た上でスポット選定してエリア指定を行っている那賀町ドローンマップ。ver1が完成したのが2017年4月。以降、毎年改訂を重ねて今年2019年3月完成したver3は、町内35カ所のフライトスポットを掲載しています。
ドローンマップ掲載のおすすめスポット『虻ヶ淵』。合併する前、相生町の頃に有名な景勝地だった虻ヶ淵は、川の両岸に道があるものの、国道沿いからは少し離れていたり、樹木に覆われていたりして、地元住民以外は那賀町民でも目にする機会が少ないところ。しかし、ドローンで俯瞰すると、それはそれは美しい光景をキャッチできます。
こちらは上那賀地区の旧桜谷発電所跡。明治時代後期建造の取水口や堰堤跡などが今に残るヘリテイジポイント、土木遺産にも選定されています。山間の谷の自然の風景の中に人の歴史を感じさせる人工物のコントラストが映えまくります。
JAPAN DRONE 2019のブースでは那賀町ドローンマップの各フライトスポットを空撮動画にて紹介。YouTube「那賀町ドローンマップ配信映像」で見ることが出来ます。
川口ダム湖公園の上空から撮影した写真を活用した那賀町さくらまつりのチラシ。
ver3になり、新たに川口ダムにより近いスポットが加わり、さくら空撮のバリエーションが増えました。
那賀町ドローンマップから繋がる縁
山が多い那賀町で、オフラインでも見えて、携帯性がいいよう紙ベースで制作されたドローンマップ。より大勢の方々にご覧いただけるよう、那賀町ドローン推進室HPにPDF版を掲載しています。
ドローンマップをリリースしてまもなくのこと、HPに一本のメールが届きました。送り主は首都大学東京4年生(当時)渡邉康太さん。ドローンの周辺環境について調査しているうちに那賀町を見つけ、役場内にドローンの担当部署があること、様々なカタチでドローン利活用に取り組んでいること、一般のドローンユーザー向けに町がドローンマップを制作していることなど、全国を見渡しても他に類をみない那賀町ドローン推進室に興味関心をもったとのことでした。やり取りを重ねる中で話が進み、町と所属先の研究室との間で共同研究をすることに。渡邉さんは、ヒアリング・フィールドワークのため度々那賀町へ。そうして制作されたのが那賀町ドローンマップ3Dです。紙ベースの地図情報から360度画像や動画などデジタル素材を駆使。フライトスポットの現地情報がよりユーザーに分かりやすく伝わるよう設計されています。
2018年6月、東京代官山にて開催された那賀町関東ふるさと会にて那賀町ドローンマップ3Dをプレゼンする渡邉康太さん。担当教官の渡邉先生(偶然同じ苗字)が移籍した東京大学大学院渡邉研究室との共同研究で継続しています。
『JPAN DRONE 2019』の那賀町ブースに来てくれた那賀町ドローンマップ3Dを開発制作した渡邉康太さん(写真中央)。右は産経新聞社ドローンタイムズ副編集長村山繁さん、左は那賀町まち・ひと・しごと戦略課課長兼ドローン推進室室長の三好俊明さんです。
他にも超ノリのいい関西系YouTuberコアラさんともご縁ができました。以前、那賀町を訪れドローンを飛ばしたことあるそうで、「今度また仲間達を誘って那賀町へ行きたい」とカメラを回しながら熱弁!
右端から「たぶん世界初!だから日本初。」大阪阿倍野の銭湯でドローンレース主催した41DESIGNさん、大分湯布院でドローンの宿 時のかけらを営む内藤さん。
振り返ってみるとドローンを通じて、たくさんの方と出会い、これまでまったく那賀町を知らなかった人にも興味を持っていただくきっかけになったのだと思います。
最後に那賀町ドローンマップver3の冒頭を飾るリード文を紹介します。
四国徳島の山間部、高知県との境に位置する那賀町は、日本の滝100選に選出される名瀑や樹氷など神々しい自然が身近にあり、ドローンによる空撮を趣味とする人達にとっては夢のフィールドと言えます。今後ますます飛行制限が強化されることが予想されるドローンにとっては、「市内から遠い」、「消滅可能性都市」といったマイナス面も、むしろ好条件。そこで那賀町では、地域の自然をいかし、各地からドローン撮影愛好家が集う「日本一ドローンが飛ぶまち」を目指し、さまざまな取り組みを行っています。皆さまも是非、那賀町の素晴らしい風景を「空から」楽しんでみてください。
「安心安全にドローンが飛ばせる町、那賀町」ジワジワと浸透中!
ぜひ、ドローンを飛ばしに那賀町へいらっしゃってください。
■問い合わせ
徳島県那賀町まち・ひと・しごと戦略課 ドローン推進室
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