徳島県移住アドバイザーの小林陽子さんに移住にまつわるあれこれを伺う「ようこの移住なんでも相談室」。第二弾は「住まい」をテーマに伺います。これまで移住者の住まいとして注目されてきた「空き家」ですが、早くから移住に取り組んできた地域では空き家不足が問題に。移住の世界で「空き家」といえば、できるだけ修繕にお金のかからないすぐに住める空き家、または少し手直しすれば住める状態が理想ですが、そうした物件は少なくなってきました。
地方に残された空き家の持ち主は、往々にして県外に住む息子、娘。コロナ下、県外への移動が制限されたことで管理が十分に行き届かなかったり、豪雨や台風なども影響し、老朽化が加速しています。「いらなくなった家は町に寄付したらいい」と安易に考えている人もいるかもしれませんが、「相続土地国庫帰属制度(令和5年4月27日からスタート)」を利用するのも、そう簡単ではありません。長年、空き家改修にも携わってきた小林さんに利活用のヒントを伺います。
相続土地国庫帰属制度についてはこちら
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html
――早くから移住に取り組んできた移住先進地では、移住者の住まいとなる空き家が足りない状況になっていますね。
そうそう、その通り。うちの町(美波町)も家を取り壊して更地にしたり、空き家でも住める状態じゃなかったり・・・。どうにかして住むところを作っていかないと、移住者が来てくれないと思っています。
――空き家の管理は相続した人の負担になっていると思いますが、住める状態の家を保つ秘訣は何かありますか?
ごっつい簡単!『カライエ(住まい向け除湿乾燥機)』付けましょう。電気代も安いし、時々来て窓を開け閉めするより、あれをひとつ付けておく方がいいですよ。家は湿気で傷んでいくんで、『カライエ』付けたらカビも生えない、シロアリも来ない!あれはホントに素晴らしい(※個人の感想です)。
――あと荷物の処分や片付けに悩む人も相変わらず多いです。
前から言うように片付けはゴミ袋1つから!一気にやろうとせず、「とりあえずゴミ袋1つ、いっぱいになったら終わり」と決めて取り掛かるといいですよ。それから一人でやらないこと。誰かと一緒におしゃべりしながらやると気が紛れます。
ゴミを持って帰るのが嫌やったら、玄関に積み上げておくだけでもいい。それか1部屋にまず集めてください、物を。そしたらやる気が出ます。

↑空き家の片付けの様子。
――空っぽの部屋をまずひとつ作るってことですか?
そう。空っぽの部屋をひとつ作ると片付けに行った時に気持ちがいいし、やる気も起こる。

――そもそも空き家になるのを待たず、片付けは早く始める方がいいですね。
最低でも70歳までには絶対しとかなアカンね。可能だったら68!重たいもんを持てる、脚立に上がれる年齢は65歳くらいまで。それ以降にやると骨折したりする危険性が増しますよ。

ゴミの分別方法も地域によって異なるので、自治体のゴミ分別方法を確認してから不燃、可燃など大別しながら処分していくと、片付けも早く進みます。
――なるほど。
新聞に「築130年の家を潰した。もう心が折れそう」って記事が出てたんです。家を継いだ長男さんの辛い気持ちが書かれてて。その気持ち、よう分かりますよ。取り壊さないといけなくなる前に、なんか方法がなかったんかなって。
――移住者に利用してもらおうという選択肢は思いつかなかったんでしょうか?
みなさん自分の家をボロ家って思い込んでるんですよね。「荷物もいっぱいあって、汚い」、「こんな家どないするんじゃ?」、「借りてくれるわけがない」って思い込みすぎている。そうじゃないですよ。落ち着いてとにかく家の中の荷物を片付ける。なんにもない部屋をひとつずつ作って、片付けていけばなんとかなると思うんですよ。自分でできないと思ったら役場(行政)に相談してみてください。

移住者支援を行う海陽町のNPO法人あったかいようのみなさんのサポートもあり、空き家の片付けも着々と進み、改修もスムーズにはじまりました。
古民家のDIYは要注意!まずは地元の大工さんに相談を
――古民家を安く手に入れ、DIYして暮らしたいという人もいますが、改修時の注意点を教えてください。
マンションやアパートなどの借家は、釘一本、穴一つ、手を加えられないという不自由さがありますよね。その点、古民家は元々傷んでるんで手を入れ放題と思われ、都会の方は安い価格に喜んで買われます。でも、それは大間違い!しっかり見極めないと後でお金がかかります。
特に雨漏り。これは素人には手に負えませんよ!! 建築家でも雨漏りの原因はわからないって言いますからね。雨漏りしたら何百万円の単位で修繕費が必要と思ってください。それでも完全に止めることは出来ない可能性もありますからね。なので、古民家を買うつもりなら屋根の修理をこれまでどれだけしてきたかを確認して下さい。「移住して1年目の台風で、屋根が飛んだ」なんて話はよく聞きます。そんな時、保険に入っているかも重要です。なので、屋根にはうんと気を付けて下さいね。

美波町の大工、中岡さん。片付けが終わるとS邸の本格的な改修が始まります。
――たしかにリフォームというと屋根よりも内装を気にする人の方が多いですね。
それが悪いわけじゃないんですよ。移住者の多くは内装にお金を掛けがちなのが心配です。私のおすすめは、内装は生活してみた後で試行錯誤されるのが良いと思うので、最初にドカッとお金を掛けないように。まずは最低限必要な部分だけにしておいて、選択肢を持てるようにしておくのがいいと思います。あと、古民家の改修で怖いのは、柱や壁を抜くこと。テレビ番組などの影響だと思うんですが、よく皆さんワンフロアにしたがりますね?私は台風や地震ですごい揺れるんだろうなと思って見ています。柱や壁だけでなく、襖や建具も無闇に取り外すと全体のバランスが変わって、揺れる原因になると思うんですよね。素人の感覚で柱、壁は抜かないように!襖や建具もそのまま有効活用する方がいいと思います。
――耐震や防火などを考えると、リフォームもちゃんとした人にお願いする方がいいですね。
古民家手に入れたら出来る限り初めから自分で全部直そうと思わず、その町の業者さん、大工、左官屋、水回り工事、電気工事これらの人に相談することをおすすめします。特に電気やガス関係の工事に関しては資格がないと出来ないことも多い。水回りも素人のDIYでは後々問題が出てくることもあるので、メンテナンスも含めて業者さんに頼むことをおすすめします。
実はこれら全ての業者さんたちと繋がっているのは大工さんなんですよ。大工さんと仲良くなっていると信用できる地元の業者さんを紹介してくれます。田舎暮らしで大事なのは地元の大工さんと仲良くなること。台風などで修繕が必要な場合や何かトラブルが会った時にすぐに対処してくれる関係性を作っておくことが大事なので、いつでも駆けつけてくれるような地元の大工さんと仲良くなりましょう。そうすると地元のいい左官屋さん、水道屋さん、電気屋さんを紹介してくれますよ。

――――地元の大工さんとは、どうやって知り合ったら良いですか?
まずは役場に聞くことです。それから町内会やお隣さんがお世話になっている大工さんを教えてもらうのもおすすめです。ただこの場合ひとつ注意して頂きたいのが、田舎でよくあるんですが悪い業者さんが関わっていても「近所の人がやってもらったから」と安心して、「じゃあ、うちもお願いしよう」と連鎖していくことがあるんですよ。これ、屋根の修理とかでよくある話なんで注意してくださいね。そうした意味でもまずはやっぱり地元の大工さん。悪い噂はすぐに広まり、田舎では商売できないようになります。そういう世間話の怖さをよく知ってるので、地元の大工さんは下手なことできませんからね。古民家でどれくらい長く住まれるかは人それぞれですけれども、改装はぜひ、大工さんや建築士さん等の専門家に相談したうえで直すようにして下さい。

この家を購入したSさんご夫婦。中岡さんのお手伝いに奮闘しています。
――――地元の大工さんにお願いする際に気をつけることはありますか?
田舎へ行けば行くほど一人でやっている大工さんが多く、見積もりなど出し慣れていない人も多いので、後で困らないように金額は先に確認しておくこと。リフォームが始まるとなんだかんだで予定していた金額より増えていきます。お金の話を恥ずかしがらず、「予算内でやって欲しい」と念押ししておくなど、軽微な変更でも確認しておくことをおすすめします。
――――ありがとうございました。

中岡さんと小林さん。ローコスト、ハイクオリティな古民家リノベを実現する凄腕です。