牟岐町だからできる!子供達へのキャリア教育

2014年、牟岐町で行われた高校生向けサマースクールHLAB TOKUSHIMA(事業名:徳島サマースクール by H–LAB)。これに参加した学生たちが「牟岐町へ恩返しをしたい」と自主的に教育やまちづくりを支援する団体『ひとつむぎ』を結成し、2015年に特定非営利法人となり、メンバー変更を重ねながら大学生が事業の企画・運営を行っています。『ひとつむぎ』結成当初から顧問として併走してきた大西浩正さん。2017年12月に『特定非営利活動法人 牟岐キャリアサポート』を立ち上げ、さらなるサポートと牟岐町だからできる子供達へのキャリア教育を中心とした活動に力を注いでいます。

 

 お世話になった町への「恩返し」が学生達の原動力

―――大西さんが行っているキャリア教育とは、どういうものでしょう?

特定非営利活動法人 牟岐キャリアサポート 理事長 大西浩正さん

大西さん 小・中学生の社会人基礎力を育成することを目的に行うもので、子供達が自分の言葉で自分の考えを伝えることができるよう、ワークショップやプレゼン練習、イベントの企画運営などを通じて、人間的に成長するための取り組みを行っています。

―――社会人基礎力というと?

大西さん 文科省では「基礎的・汎用的能力」と規定しているものですが、自分で課題を発見し、その解決に自主的に取り組み、周囲と協力しながら課題を解決していく力です。社会人基礎力を養い、多様で主体的な進路選択ができるよう、NPO法人『ひとつむぎ』とタイアップしながら、プログラムを運営しています。

―――そういった活動をされることになった経緯をお聞かせください。

大西さん 私は平成22年~25年まで徳島県教育委員会に勤務しており、その時に、東日本大震災の被災地支援や、グローバル人材の育成、キャリア教育等に関わっておりました。その時に、高校生を対象としたサマースクールである『HLAB(エイチラボ)』を徳島に誘致する機会に恵まれ、それが牟岐町で開催されることになりました。2014年に開催された第1回『HLAB TOKUSHIMA』の運営に関わっていた一部の学生が、「お世話になった牟岐町で恩返しをしたい」と『ひとつむぎ』という団体を立ち上げました。この『ひとつむぎ』は、その後も大学生の頑張りによって続いているのですが、私は県職員だったので、環境指導課長や小松島市の政策監の仕事をしながら、勤務時間外にボランティアで彼らをサポートしてきました。しかし大学生の活動は継続性を担保しにくい。予算組みや行政手続きなどは、極めて弱い。そこで、『ひとつむぎ』も含め、町のイベント等で関わる大学生を支援し、その子達が社会人になった後も地域人材としてストックされる仕組みを作りたい考え、平成29年3月に仕事を辞めて『特定非営利活動法人 牟岐キャリアサポート』を立ち上げました。

―――牟岐町で法人を立ち上げられたのは、大西さんが牟岐のご出身だからでしょうか?

大西さん いえいえ、縁もゆかりもないです(笑)。『HLAB TOKUSHIMA』を受け入れた自治体がたまたま牟岐町だったので。その時、牟岐の人達が極めて良心的にサポートしてくれたことがきっかけです。『HLAB』に参加した学生達の「お世話になった牟岐町に何らかの形で恩返ししたい」という気持ち応えたいという思いで「ひとつむぎ」に関わりました。「牟岐キャリアサポート」を立ち上げたのは、そこからの成り行きです。

―――「恩返しがしたい」という気持ちをきっかけに学生達が団体を法人化し、活動を継続しているのはスゴいですね。

大西さん そうですね。学生達も初めはまちづくりや教育に関する事業のお手伝いや補助的なことをやっていたのですが、特に教育の部分で、すごく頑張って目に見える効果を出したんですよね。牟岐町のように高校も大学も無い町では、子供達にとって“少しお兄さん”と感じる近い将来を投影できるロールモデルのような大人との接点は少ない。そのため、大学生と一緒に行うキャリア教育がすごく大きな影響を与え、子供が育つという状況になってきて。ですから、最初はガッツリと事業を行う団体を想定してなかったのですが、活動の過程で『ひとつむぎ』のメイン事業が「キャリア教育」になりました。

 

 成長が目に見える「シラタマ活動」

―――実際に今はどういった活動をされているんですか?

大西さん 話がややこしくなりますが『牟岐キャリアサポート』として行う事業と、『ひとつむぎ』として行っている事業があります。『牟岐キャリアサポート』は、『ひとつむぎ』など学生が関わる取組みを支援しているのですが、例えば、「牟岐の残したいもの写真展」など中学生や高校生に参加してもらう事業もやっています。その他にも大学生を対象とした課題解決型のワークショップなども考えています。

―――面白そうですね。課題解決型のワークショップに参加する大学生は、一般公募されるでしょうか?

大西さん 公募ではなく、まずはモデル的に今まで地域と関わりがあった大学生で立ち上げようと思っています。

―――四国の右下エリアは徳島県内にある大学のサテライトオフィスもありますが、四国大学、徳島大学など地元の大学と関わっていくこともありますか?

大西さん 『ひとつむぎ』も含め、特定の大学と組むことは考えていないです。どこかひとつの大学や決まった研究室の大学生というのではなく、『ひとつむぎ』には全国各地の大学、学部、専攻の大学生が目的やミッションを持って集まっています。「ここでやりたい」という学生達の熱意に引き寄せられるように、クチコミで知り合いの学生が集まってきているという感じです。

―――そういった学生たちがフィールドワークや地域で活動する中で、これまで一番刺激的だったことや、手応えを感じられたことは?

大西さん 一番大きいのは、『ひとつむぎ』の基幹事業である「シラタマ活動」ですね。

―――シラタマ活動?

大西さん 牟岐町の出羽島にある“シラタマモ”っていう天然記念物にちなんで名付けられた、小学生を対象にした「シラタマ学級」という社会教育プログラムが元々ありまして。初めは「シラタマモ学級」だったのですが、言いにくいので「シラタマ学級」に。その中学生拡大版が「シラタマ活動」です。


牟岐町では少子化のため保・小・中の地域施設を一体運営する「パッケージスクール」という全国的にも先進的な取り組みを行っていますが、生徒数が少ないため人間関係は固定されますよね。そうした中で子供達の力を伸ばしていくためには、どうしたらいいかと考えているときに、たまたま『ひとつむぎ』の大学生が「何でもやります」って出てきたものだから、「じゃあ彼らに新しい風を吹き込んでもらおう!」と「シラタマ活動」が始まりました。

―――具体的にはどんなことをしているんですか?

大西さん 中3生が中心となって夏の終わりに『むぎいろフェスティバル』というイベントを行っています。『むぎいろフェスティバル』では、中学3年生が、小学6年生から中学校2年生、さらに地域の人も巻き込んで、町の課題解決に取り組み、イベント等の形態で表現していきます。大学生はワークショップやプレゼンなどを通じて中学生の可能性を引き出していきますが、主役はあくまでも中3生です。また、イベント自体の成功よりも地域の方や下級生と一体になって準備する過程での成長を重視しています。初めは引っ込み思案で何も言えなかった子が変わったり、進路を主体的に考えるようになったり、「このイベントは自分達が支えている」という自覚が、目に見える成長につながっていきます。

ここでの体験が起点になって「高校生に進学した後も集まる場が欲しい」という要望があり、「ローカルハイスクール」という取組みにつながりました。高校生になると、徳島市内や、場合によっては県外から友達を連れてきて、サポートする大学生や社会人も全国各地から集まるという連鎖反応を起こしました。

―――活動の積み重ねが、少しずつ人の輪を広げているんですね。

大西さん そうですね。大学の単位が欲しくて地域活動に参加するという学生もいると思いますが、そういう人達は一過性で、単位取得など目的を達成すると関係が切れてしまう。牟岐キャリアサポートの副理事長は『ひとつむぎ』の出身で、現在、東京の大手IT企業で仕事しならが、ボランティアで関わり続けてくれています。

 

年間延べ500人以上の大学生が牟岐町へ!

―――大西さんも含め、縁もゆかりもない方達が牟岐町に自分たちの活動を見出し、繋がりを広げているのは面白いですね。

大西さん 面白いです。各地で様々な教育支援が行われていますが、小学校・中学校の義務教育の分野に「よそ者」が入って活動しているところは珍しい。牟岐町の場合、生徒数の減少に伴い、小中一体で教育に取り組む中で、教員が担う部分、地域の力を借りる部分、よそ者である大学生が関わる部分など、「タテの関係」だけでなく、「ナナメの関係」も取り入れている。そのことができる町って少ないと思います。大学生は受け入れてくれるフィールドがあるので、心おきなく現場に向き合い自分達で作り込んでいく。その成果を町が評価して応える状況ができたので、前に進んできたのかなと。


行政はどうしても「上からの動き」を考えるので、「偉い先生に入ってもらいましょう」とか「大学と連携協定を結んで学生にきてもらいましょう」というカタチになりがちです。しかし『ひとつむぎ』の場合は、大学生の「恩返しさせてください。何でもします」というゼロベースがスタート。「下からの動き」を行政が拾い上げた。その違いは大きいと思います。

―――牟岐は漁師町ですから、都市とは生活習慣も違うし、特に他県から来た学生さんは方言も分からず、苦労することもあったんじゃないですか?

大西さん まぁ、苦労はしているでしょうけどね。でもおそらく、「シラタマ活動」に代表されるように、子供達や若い世代が中心になって動ける部分があるので、苦労と感じていないのかな。


大学生が地域に入って、「この地域をどうするか」というような大きな課題に取り組んで町に提言する事業ってよくあるじゃないですか。商品開発や観光客誘致、それらの情報を発信とかね。でも役所は、意外とその成果を使ってないですよね。大学生の遊びに付き合ったくらいの感じで、正面から大学生の頑張りを捉えてくれないケースが多い。牟岐町の場合は、大学生が頑張りを真正面から受け止めてくれているので、大学生は頑張れば居場所がある。そのことが全国的にある程度、評価されるようにもなってきて、内閣府の「子ども若者白書」にも先進事例として掲載いただきました。大学生を地域に入れようという自治体は多いですが、「○○つがなりの○○大学にしよう」とか、「協定を結ぼう」というカタチを整えることから始めることが多い。しかし、行政や地域の方が大学生と並走する「良い現場」がないと、大学生のモチベーションはあがってきません。

過疎地で、交通の便が悪い地域に、「ひとつむぎ」だけで年間延べ500人以上の大学生が足を運び活動しています。HLABのサマースクールなどもありますので、これらを加えると非常に大きな数字です。

―――学生達が地域課題を自分事として捉えて、自走し始めている感じがよく分かりますね。

大西さん ここまで持ってくるのは相当大変でしたが、一番最初に関わった学生達が優秀で、特に頑張ったと思います。また面白いことに、その子達が就活の際に一流といわれる企業を受けると、どんどん採用が決まるんですよ。こうした経験を企業のインターンシップや留学よりも高く評価されるということが嬉しいですね。

―――既成のプログラムが用意されているわけではないですもんね。

大西さん 一応、大枠はあるのですが、事業を運営する大学生も参加する中学生も毎年違いますし、地域との関係も日々刻々と変わります。変化の中で最適化を探す作業を繰り返さなければなりません。この仕事の醍醐味はまさにその部分です。

―――毎年、予測不能というわけですね。

大西さん だからいつも苦しいですよ。運営する大学生の中にエースのような子がいると楽なんですけどね。プログラムの企画、運営やインナーワークを任せられる子がいる時は。まぁ、仮にそういう学生がいたとして、「賞味期限」って言い方は乱暴かもしれませんが、「賞味期限」は2~3年。留学やインターンシップ、就活などの時間を差し引いた実質賞味期限2年の制約の中で、どのように成果を出していくか。また、大学生が大切な時間を提供してくれていることに対して、「学び」というカタチでお返ししなければなりません。

1~2年では成果は見えなくても、5~10年経った時に、関係人口が外側に広がり、牟岐町や徳島県に人材がストックされ、社会を変えるというように、視座高く持つように心がけています。

―――なるほど。人と人との関係をひとつずつ、結んでいくような地道な活動というわけですね。

大西さん なかなか活動内容が伝わりにくいですが、続けていかないことには先がないですからね。田舎の子って、人間関係が固定されていますから、会話に主語がないですよね。主語述語がはっきりしなくても「あれ」「それ」で通じてしまう。でもその子達は15歳の春には町外に出て行くのが宿命。18歳になったら就職あるいは進学する。場合によっては県外へ出て行かなければならない。そのためには小学校の高学年、中学校段階から物事を頭の中で整理し、論理的に話ができることや、他者と協働できる習慣をつけていかないと。それが身についていないと、生きづらくなるんですよね。


子供達にとって、田舎に生まれたことがマイナスにならないよう、逆にプラスにするにはどうすればいいのか・・・。「ローカルハイスクール」という取組みは、大学はおろか高校もない地域に住んでいても、全国各地から大学生や社会人が集まってくるので、大学のことや社会の動きを学べます。高校生が大学生や社会人ときちんと繋がって、「自由に動ける力」をつけることができる。「自由に動ける力」をつけるということは、糸が切れた凧のように外の世界に流されていくのではなく、主体的に判断し行動する力をつけることです。

―――自分の力で動ける人材は今、本当に必要とされていますね。

大西さん そうですね。国では「学習指導要領」等を見直していますし、その動向も気にしながら・・・ですね。子供達が自分で決める力をつけるため、どういったキャリア教育が必要か、これからも実践しながら、探求していこうと考えています。

―――ありがとうございました。

 

◎関連情報サイト

NPO法人ひとつむぎ https://hitotsumugi.org/