探訪!海陽町のカフェ&アートスペース『タニのいえ』

おおらかで温かいアートスペース『タニのいえ』

日本の”白砂青松百選”にも選ばれた大里松原海岸の近くに、日々の暮らしをアートの視点で切り取って見せる不思議な家があります。名前は『タニのいえ』。家主は宮本紫野さん。海陽町のおおらかで温かい雰囲気の中で育った元気な女の子が、大人になり、故郷に戻って作ったワクワクとドキドキを集めた気取らないアートスペースは、街中のギャラリーとはちょっと違う、ほっこりとした居心地のいい場所。へんてこりんなものもいっぱいだけど、そのすべてがたまらなく大切で、愛おしい。宮本さんの好奇心によって企画された展示を振り返りながら、『タニのいえ』の魅力と今後の展望についてお話を伺いました。


◎タニのいえ
徳島県海部郡海陽町大里馬谷3
開店日 月、金、土曜 12:00〜17:00
問い合わせ tanninoie.k@gmail.com
※臨時休業有り。
FB、Instagram、Twitterの「タニのいえ」ページにて随時情報発信。

 

個性的な企画展、いろいろ!

―――『タニのいえ』はどんなお店ですか?

宮本さん 作品展示と雑貨販売とカフェと少しのお惣菜販売をしています。
元々は築70年ほどの私の祖父母の家で、10年ほど空き家になっていたのをそのまま使用しました。祖父母が「谷」という苗字で、小さいころからこの場所を「谷の家」と言っていたので、そのまま『タニのいえ』という店名にしました。

―――作品展はどのようなものをしていますか?

宮本さん 展示は基本的に企画展の形をとっています。私が企画を考え、それに合わせて作家さんに声をかけて作品を展示してもらいます。作家さんとして活動している方の作品はもちろんですが、企画によってはこどもが撮影した写真や近所のおばちゃんに聞いた昔話、友人たちに書いてもらった文章なども展示しています。

アートと呼べるかどうかは分かりませんが、自分がワクワクドキドキしたり、新しい世界や考え方に触れさせてもらえるものを展示しています。

―――これまで開催した企画展について教えて下さい。

宮本さん 第一弾は「祖父母展」を開催しました。

これは、それぞれの祖父母をテーマに作家さんには作品を作ってもらい、作家さん以外にも友人や近所の人たちに声をかけて祖父母についての文章や写真を展示してもらいました。


有名でもなんでもない普通の人たちが生きている、生きていた匂いのようなものを伝えたいと思い企画しました。

第二弾は「10歳以下と80歳以上が撮る インスタにはあがらない日常写真展」です。

10歳以下のこどもと80歳以上のお年寄りに、使い捨てカメラで自分の家の中で気になったもの好きなものなど何でも自由に撮ってもらった写真を展示しました。

これは、上手でも綺麗でもなくても良い作品はあるし、その歳でしか表現できないものがある、ということを意識して企画しました。

 

第三弾は「日常を視る目」。

日常を様々な目線で見つめ作品にしている作家さんたちの作品を展示しました。

ありふれてつまらないと感じがちな日常だけれど、目線を変えたら少し世界が変わるかもしれない、と考え企画しました。

 

現在は「16人の超個人的な海外体験記」を開催しています(2019年4月8日まで)。

友人たちの海外での体験を写真や文章で表現してもらっています。

テレビやネットですぐに海外の情報が手に入りますが、人によってタイミングによって同じ場所に行っても感じ方は違うと思います。そんな、個人的に見て感じてきた色んな国を教えてもらいたいと企画しました。

 

カフェや雑貨販売+お惣菜も!

―――カフェでは何がいただけますか?

宮本さん デザートとドリンクをお出ししています。

デザートは、阿波市のお菓子職人さん『うるうるず』さんのスコーンやアイス、焼き菓子を季節ごとに種類を変えて。それに、海陽町のお菓子作りが上手な友人がきまぐれで作ってくれるパウンドケーキなどをご用意しています。おすすめは『うるうるず』さんのアイスと友人のパウンドケーキを使ったパフェです。

ドリンクは、香川県高松市の『プシプシーナ珈琲』さんの豆を使用したコーヒーや、自家製シロップのジンジャーエール、梅ジュース、『うるうるず』さんのアイスを乗せたクリームソーダやコーヒーフロートなどがあります。

―――雑貨はどんなものを販売していますか?


宮本さん 様々な作家さんの手作り雑貨やZINEと、徳島県内の障害のある人たちの福祉施設で作っているグッズを販売しています。母が染色家で私も少し制作しているので、母や自分が作った藍染やシルクスクリーンで制作した衣服やアクセサリーなどもあります。

―――お惣菜はなぜ販売しているのですか?

宮本さん 86歳になる近所のおばちゃんが「お惣菜も売ってくれたら助かる」と話してくれたので始めました。歳をとって体調が悪い日も多いのに自転車で少し離れた店にお惣菜を買いに行く姿をいつも見ていたので、おばちゃんの生活が少しでも楽になればと思い。いざ初めてみたら、おばちゃんはほぼ毎営業日来てくれるんですが、それ以外にも小さいお子さんを抱えて仕事をしているお母さんや、晩酌の肴に、と時々買いにきてくれる方もいます。

「わざわざ車でスーパーに行かなくてもちょっとおかずが買えて助かる」と言ってくれて、みんなの生活のちょっとしたお手伝いができていると思うと嬉しいです。海陽町久尾の『岩崎屋』さんがお惣菜を出してくれたり、郷土料理のかきまぜ寿司を販売する日もあります。

ちょっと気分を変えたい人が気軽に立ち寄れる場所

―――なぜ『タニのいえ』を始めようと思ったのですか?

宮本さん 田舎でも多様な表現や生き方、価値観に触れられる場所があれば良いなとずっと思っていました。同時に、田舎に住む普通の人たちの魅力を常々感じていたので、彼彼女らが自身でも気づいていない魅力を伝えたいとも考えていました。

そこで、学生時代に地域起こしを目的としたアートプロジェクトの研究をし、自分でも商店街や町全体を舞台にしたアートイベントの企画をいくつかさせていただいたんですが、自分には開催期間だけ人がたくさん来て終わったら去っていくようなイベント型のプロジェクトは向いていないと感じるようになったんです。たくさん人が押し寄せることは無くても、いつも存在してじわじわと時間をかけてその町に馴染んでいくような。そして地域外からもポツポツとでも人が来て、展示もこの町も楽しんでもらえるような。そんな場所を作りたいと思うようになり、ちょうど空き家になっていた祖父母の家もあるし、ちょっとやってみようかな、と2016年に「祖父母展」を開催しました。

―――その時は展示と雑貨販売のみだったようですが、カフェも始めたのはなぜですか?

宮本さん 始めはカフェをしようとは全然思っていなかったんですが、色んな人から「コーヒーも飲めるようにしたら良いのに」と言ってもらい、「田舎でもカフェって需要あるんやな」と気づきました。また、カフェをすれば展示に興味がない人も足を運んでくれるかもしれない、と思いました。
もともと、近所のおばちゃんも子供も中高生も、地域外のアートやサブカル好きな人も、色んな種類の人が出入りする場所にしたいと考えていたので、「これはカフェ必要だな!」と。
それからカフェをしようと考えていると言った時に『うるうるず』さんや友人がお菓子の提供に快く協力してくれたのもとても大きいです。私はお菓子づくりもできないし、二人が協力してくれなかったらカフェはやっていないかもしれません。

―――実際にカフェを初めてみてどうでしたか?

宮本さん 展示だけよりも、色んな人が出入りしてお客さんの楽しみ方も広がったようで嬉しいです。カフェ目的で来たお客さんが展示もみてくれたり、この町でパフェが食べられるのが嬉しいと言ってくれたり、高校生や中学生が入ってきてくれたり。置いてある本を読みにコーヒーを飲みに来てくれる方もいます。遠方から展示目的で来てくださるお客さんはカフェで一息ついてリフレッシュしてから展示を見てくれる方も多いです。カフェにいるお客さんとお惣菜を買いに来たおばちゃんが会話したりすることも結構あり、そんな光景をみるのはすごく嬉しいですね。

―――今後の目標はありますか?

宮本さん 地域の中高生と関わりあって作る企画やワークショップをやっていきたいと思っています。せっかく近所に小、中、高校が揃っているので。また、子供たちが思いっきり楽しめる企画もやっていきたいです。小さな子供さん連れの親子も時々来てくれるんですが、作品があったり広い場所に来たらテンションが上がって走り回ったり触りたくなったりするんですよね。私の子供も2歳なんですが、まさにそうで。お母さんお父さんも子供たちを見るのに神経を使って大変で。なので、「ダメ」って極力言われない展示やワークショップをしてみたいです。

あとはジェンダーや人種など、田舎にいたらあまり身近に感じないで過ごしてしまうことを知って考えるきっかけになる企画もしていきたいですね。私は高校まで海陽町で育ったんですが、田舎特有の閉塞感をいつも感じていました。同じように感じている人や、そうでなくてもちょっと気分を変えたい人、日々に疲れた人、何か新しい刺激に触れたい人たちが、この場所で出会う作品、本、デザート、雑貨などに触れることで少しでも心が自由になってくれたら嬉しいです。

---------------

プロフィール/宮本紫野 『タニのいえ』家主。


1986年海陽町出身、高校まで海陽町で育つ。京都造形芸術大学アートプロデュース学科、鳴門教育大学大学院修士課程卒業。学生時代から地域おこしを目的としたアートプロジェクトに興味を持つ。大学卒業後2009年徳島県神山町上角商店街にて自主企画展「なにげない日常にワクワク展」を開催。大学院では地域おこしを目的としたアートプロジェクトについて研究し、各地で開催されているプロジェクトに足を運びボランティアスタッフなどを経験。大学院卒業後「牟岐・出羽島アート展2015」などのディレクターを務める。2016年8月〜10月『タニのいえ』プレオープン。出産を経て2018年1月より再開。